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ブリーフィング

COVID-19(新型コロナウイルス)による不況下におけるコンプライアンスリスク管理

はじめに

新型コロナウイルスの感染拡大は、私達の日常生活や事業活動に様々な影響を与え、今後も長期的に影響を及ぼすことが予想されます。各国政府は、公衆衛生に対する非常事態および厳しい経済不況への対処という重要な課題に直面し ています。法律事務所によるアップデートの多くにおいて、新型コロナ禍が契約上および取引上の関係が及ぼす短期的な影響に焦点を当てていますが、今回の危機が規制およびコンプライアンスにどのような影響を及ぼすかを長期的に分析することも 重要です。今後 、各国政府は国内企業を優遇する政策を講じ、一方で外国企業に対しては保護主義を強めることによって、更なる経済制裁と貿易戦争が引き起こされるのでしょうか。また、規制当局にとって、種々の規制を執行することが、将来的な財政援助やその他の救済措置の財源を捻出するための重要な手段となり得るのでしょうか。

各国政府が新たな現実に順応しながら、コンプライアンスへの取り組み方法の検討を進めるに従い、各国で共通のテーマや、新たな規制のトレンドも見られるようになってきました。この度、弊事務所は、10の新たなコンプライアンス・リスク分野 と 、新型コロナ禍による危機の中でこうした新旧のリスクに迅速かつ先を見越して対処するために、クライアントの皆様が検討しうる対応策をまとめたウェブページを作成いたしました。

今回の危機における10の新たなコンプライアンス・リスク分野

  • 内部会計 - 倒産を回避し、納税義務の負担を軽減するため、利益や損失の過大申告や、市場の変化を反映していないことによる資産や負債の評価ミスなどのリスクがあります。
  • 開示や財務報告 - 資産の過大評価や、特に現在のように経済的に困難な時期における不正確な将来予測に基づく記述をしてしまうリスクがあります。
  • 贈収賄と汚職 - 市場の混乱は、事業運営と売上の維持をしなければならないという従業員へのコマーシャルな圧力を強めることから、贈収賄と汚職が発生する温床となります。これにより、公務員への贈賄の危険性が高まり、デューディリジェンスにおける見落とし が生じる可能性があります。
  • 市場機会の濫用 - 新型コロナウイルス関連の財政困難の軽減やパンデミック対策のサポートのために付与された公的資金が悪用されるリスクがあります。
  • 独禁法上のリスク - 競合他社や他市場との協働、不公正な価格設定や販売方法などのリスクがあります。
  • サイバー犯罪 - テレワークの普及に伴い、サイバーセキュリティの脆弱性、ランサムウェアによる攻撃、フィッシングに関連するリスクが顕在化する可能性があります。
  • データセキュリティ - 雇用主や組織が従業員の個人情報を入手し、業務にかかるコミュニケーションのために対外的および対内的にテレビ会議に依存することにより、個人情報保護関連法違反やプライバシー訴訟に発展するリスクがあります。
  • 不正行為 - 例としては、業績数値の改ざん、資金調達における信用詐欺、会社に対する不正行為、調達不正等が挙げられます。
  • インサイダー取引やその他の安全保障上の犯罪 - 貿易や渡航の制限に伴い、特定の資源が不足し、インサイダー取引や市場操作などの市場における不正行為が増加する可能性があります。
  • パンデミック特有の犯罪 - このようなリスクの例としては、新型コロナウイルス特有の安全施策違反や新型コロナウイルスに関する制限の不遵守がありますが、日本政府はこれまで新型コロナウイルスに関して、大幅な現状変更を伴う新たな法律や規制ではなく、あくまで各関係者による自粛を促してきたのみであるため、諸外国に比べて日本ではこうしたリスクはあまり顕在化していないように見受けられます。しかし、外国でビジネス活動を行っている事業者は、その国特有の法律や規制を遵守する必要があります。

対策

新型コロナウイルス関連のリスクを速やかに特定し、対処するべく、今回の危機によって発生した新たな問題に取り組む上で、事業者のガバナンスや監督に対するアプローチが十分であるかどうかを評価する時間を設けることは有益です。

  • ガバナンスが有効に機能しているか継続的に監督 - これまで以上に急速に変容し続ける環境の中で、盤石な手続体制と健全な記録保存管理を行うことが、主要なリスクに能動的かつ積極的に対処するために重要になってきています。現在の状況では、不正行為のリスクを特定し早期の軽減措置を採るこ とが、長期的に大きな効率性をもたらす状況にあります。また、柔軟な意思決定プロセスは、潜在的な不正行為や疑わしい行為の報告に関する出来事やクレームの継続的なモニタリングと同様に、こうした手続きを容易にします。
  • リスクベースのアプローチ - 新型コロナウイルスの影響に関する情報を収集するためにリスクベースのアプローチを採用し、それに照らして最新のリスク評価を見直し、新型コロナウイルスの危機がリスクとその軽減方法の双方にどのような影響を与えているかを評価することが 、統制が現在の状況における目的に合致しているかどうかを判断する際に事業者の助けとなります。
  • 内部コミュニケーション - 必要に応じて、企業は、倫理行動規範に関する基本的な企業側のメッセージをもって経営トップの姿勢を維持し、メッセージを伝達し、行動やフィードバックを促すツールを提供するにあたってあらゆるレベルの経営陣を関与させることによって、内部コミュニケーションを活用して、重要なコンプライアンスメッセージを発信または強化すべきです。
  • リソースの管理 - リモートワークの増加と就業形態の変化に伴い、企業は、コンプライアンス機能が新旧のリスクに適切に対処するため正しく機能するよう、リソースの必要性を検討し、場合によっては事業活動の調整を行うべきです。
  • 公的機関との取引や政府による新たな規制措置の実施・要請への注意 - 全国的な緊急事態宣言の発令後、日本政府は、様々な事業者に対し、自主的に休業するよう強く要請しました。また、金融庁はこの事態が国民に与える深刻な影響を緩和することを期待し、保険会社や金融機関に対して、新型コロナウイルスによる危機の被害者からの申請についてはより柔軟な対応をとるよう求める要請を行ってきました。これらの要請は、厳密には強制力を持つ法令に基づくものではありませんが、事業者は、政府の要請にどこまで応えるべきか、あるいは応えたいかを検討し、 新たな勧告・要請、あるいは新たな規則・規制についても引き続き注意を向けることが肝要です。

上記の内容がお役に立てれば幸いです。さらに、弊事務所の米国、欧州、アジア全域のグローバル・コンプライアンス・チームからのインプットに基づいて作成した、コンプライアンス・リスクとそれを軽減するための戦略の概要を解説したレポートも作成しておりますので、ご希望の場合はお知らせください。

コンタクト: 中尾 雄史山田 香織アレクサンダー・ドミトレンコカレン・コン